石井[以下I] 現在、料理家としてさまざまなフィールドでご活躍されていますが、以前はアパレル業界にいらっしゃったんですよね。
谷尻[以下T]
そうなんです。28歳までスタイリストをしていました。21歳の頃だったかな、洋画や洋楽が好きで、少しでも英語を理解したくてロンドンに留学したんです。そこで、ちょうど同じ語学学校に通っていたスタイリストの三田真一さんと出会い、アシスタントについたのがきっかけです。半年後に帰国して、タイミングよく再会したスタイリストの友達のアシスタントについて24歳で独立。その後、当時出会ったファッションデザイナーとともにアパレルブランドを立ち上げ、PR兼プランナーとスタイリスト、二足のわらじ生活をスタートさせました。
I アパレル業界で邁進されている中、なぜ食の世界へ?
T スタイリストから、ブランド運営の仕事一本にしぼってからしばらく経った頃、ブランドが目指す方向性と自分の心にズレを感じ始めたんです。そんなときに、たまたま見ていた雑誌でフードアーティストの諏訪綾子さんの記事を拝見し、「なんてかっこいいものをつくるんだろう!この方とお仕事をご一緒したい!」と感動し、ラブレターを書いたら、なんとPRやプランニングのお手伝いをさせていただけることになったんです。
I すばらしい行動力です。そこで「食」と出会ったんですね。
T そうなんです。とはいえ、もともとヨガをきっかけにベジタリアンの食生活をしていたこともあり、食に対して関心はずっと持っていましたし、海外から来日したバイヤーやスタイリストを自宅に招いてよく手料理をふるまっていました。もちろん外食もしますが、料理や人、ときには音楽さえも、自由なキャスティングができるホームパーティーが昔から好きなんです。そんな生活を送る中、結婚し、そして妊娠。「今までのようには働けないし、社会とどのような形でコネクトしていこう?」と、これからの働き方について深く考える機会が訪れました。お腹が大きくなるにつれ、外食ではなく、頻繁に自宅で友人と食事会を楽しむ私に、「そんなに人を招くのが好きで料理も好きで、それでみんな笑顔になるなら、お店をしたらもっと喜んでもらえるんじゃない?」という主人からの思いもよらぬ提案から、「HITOTEMA」ができました。
I 「HITOTEMA」では、どんな料理が楽しめるのでしょうか。
T “現代のお袋料理”というコンセプトに、和食ベースの料理をコースのみ(6,500円)をご用意しております。春より、毎週水曜日にお弁当販売も始めました。ポールマッカートニー氏が提唱している「Meat Free Monday」にちなんで、「ときどきビーガンはどう?」というメッセージを込めて、ビーガン弁当も登場します。ビーガン料理は肉料理に比べ、Co2の排出量が少ないんですよ。
I 素敵です。直子さんは働く女性の理想像のような存在です。いつも輝いている秘訣はなんでしょう?
T ありがとうございます。やっぱり体力がいちばん大事だと思っています。体調が悪いとポジティブな気持ちは生まれないし、誰かのために何かをすることもできませんよね。自身のnoteに記した「息子へ。人生で伝えたい8つのこと」という記事にも書きましたが、「強く生きること」「強く生きるために健康でいること」は、幼い頃、強くなりたいと願い続けた自分自身への思いが現れているのかもしれません。あと、他人からエネルギーを奪うのではなく、自己発電できる人でありたいなと思います。植物のように太陽の光だけで元気になれる人が増えたら、最高だと思いませんか?
I 直子さんの美しさは、そういうピュアなマインドにあるのだと思います。では、最後に22世紀の地球に住む人々に向けて伝えたいことをお聞かせください。
T 私がこの先も引き継いでいきたい“日本のおかん魂”が、時代によって形を変えたとしても、たくさんの人たちに伝わり、残っていけばうれしいです。