石井[以下I] ずばり、渡邊さんにとって“サステナブル”とは何ですか?
渡邊[以下W] “モノを愛おしく思う気持ち”でしょうか。 例えば、私たちが扱うオーガニックコットン製品の場合だと、原綿を作る人、その原綿を糸にする人、それを編む人、生地を裁断する人…誰の手でどのようにして作られているのか、その工程を知ることが“愛おしく思う気持ち”につながります。 なぜなら、工程ひとつひとつにみんなの思いが込められているから。 その思いがつながっていいモノづくりができると、それがお客様にも伝わって「わ〜お、素敵!」って喜んでもらえるの。
I モノからのエネルギーってお客様にもちゃんと伝わるんですよね
W そう。 だから、大量生産になってくると、そんな作り手の“思い”も薄まってしまうのかな。 私は、「物はこれを生かす人に集まる」という倫理の教えがあるように、モノには“意思”が宿っていると思っています。 例えば、大切にしていたモノをなくしてしまったら、ちゃんと反省はしつつも「私じゃない持ち主を捜しに行ったのね……」と思うし、部屋のカーテンだってそう。 ドレープひとつひとつがちゃんと自己主張してるじゃない。 それに、何にも言わなくても規格通りに製品を作ってくれる機械だって、見ているとなんだか可愛くって(笑)。
I すごくわかります。
W そんな風にして、モノの“意思”を感じると、いつまでも自分のそばに置いておきたくなるし、いつだってきれいな状態にしてあげたくなる。 そんな風にモノに愛おしさを感じ、大切にしたいと思う気持ちが、サステナブルの基本になってくるのでは。 「愛おしいと思えるモノに、どんなバックグラウンドがあるんだろう?」という考えは、すごく大事だと思います。
I これからの地球や社会に対して思い描くビジョンをお聞かせください。
W ここ数年、気候変動に伴う自然災害が相次いで、地球が悲鳴をあげているにも関わらず無関心な人が多く、その地球の“声”を聞こうとしなかった。 「愛の反対は憎しみではなく無関心です」とマザー・テレサが言っていたように、今いちばん必要なのは愛なんじゃないかしら。 お金や地位など、本来は後づけであるものが尺度となり、その判断基準を満たすために右往左往する。 そんな世の中のスタンダードを変えるのは、愛しかないんです。
I 22世紀の地球に住む人々に向けて伝えたいことはありますか?
W 30年ほど前にオーガニックコットン事業をはじめたとき、“セブンスジェネレーション”という言葉に出会ったんです。 それは「7世代先のことを考えて決断をする」というネイティブアメリカンの教えで、今も変わらず心の中にあります。 22世紀に向けて、世の中はずいぶんと変わっていくんでしょうね。 人とのコミュニケーションの取り方や働き方など、時代とともに“変わる”ことは良いことです。 けれど、絶対に変わってはいけないこともあるんです。 それは何か? 「“自分”という命は、どこから来たのか?」という考えです。 私の両親にも父母がいて、その父母にもまた……と考えると、先祖を10代辿るだけでも2046人います。 その中で誰かひとりでも欠けてしまうと“私”は存在しない。 それって奇跡でしょう! そして思うんです。 「この命をつないできてくれたご先祖さま、本当にありがとう」って。 77億人いると言われる地球上で、生涯出会う人は何人いると思いますか? 出会いという奇跡にも感謝しなければなりませんね。