「コレクションのテーマが『Gravitational wave(重力波)』だと聞いて、すごくしっくりきたというか、人間中心ではないものの捉え方に共感しました。なので、コラボ作品とはいえ、普段ととくに変わらない感覚でものづくりができた気がします。正直なところ、お話をいただいたときは『アパレルブランドとクラフトは、なにか温度差みたいなものがあるのかなぁ』と、少し構えた部分もありました(笑)。けれど、違うからこそ良い影響を与えあえるんですよね。その結果、新しいものが生まれたらいいなという思いでつくりました」
長野県富士見町で「仕草」という名の工房を営む佐渡さん。染めの伝統技術である「注染」を行う染工所にて修行を積み、長野に移住して11年が過ぎようとしている。染色家を目指すきっかけとなったのは、たまたま手にした一冊の本だった。
「昔から絵を描いたり、文章を書くのが好きな子どもでした。その動機には、家族や友人など、身近な人を楽しませたい、笑わせたいという気持ちがありました。将来は言葉を扱う仕事がしたくて、大学では言語文化学科を専行し、卒業後は広告制作やWEBデザインの仕事に就きました。そんな中、ある企画でデザインしたTシャツを染めることになったんです。手法を調べるために手にしたのが染色家 山崎青樹さんの『草木染め・木綿の染色』という本でした。いま思うと、何かと思考的にものづくりをする癖がついていた私は、『土から生えた植物を採取して布を染める』という草木染めの行為に、言葉にできない強いインパクトを感じたように思います」
ものづくり=自己表現だった20代の頃を振り返り、いまとの違いについてこう語る。
「当時は、人を喜ばせたい気持ちがありながらも、評価もされたい。ものづくりの動機に、いろいろな欲が絡み合っていたんですよね。作品ももう少しデザインされていたというか、『こうしよう』という思いが強かったというか……」
日々の暮らしも、ものづくりも。すべて直結しているという佐渡さんは、年齢を重ねるにつれよりより自然なかたちを求めるようになったという。
「今回のものづくりにおいても『染めた』というより『勝手にできた』という感覚に近いように、自動操縦というのでしょうか。きちんと自由はあるけれど、主体的でないような、相反するふたつの要素が混ざり合っているような感じです」
自身のことを『ストイックではない』という佐渡さんだが、注染という細やかな作業をひとりで行っている。色分けのための防染糊を施し、絵柄に沿わせて染料を注ぎ、機械を使って染料を布に染み込ませるーー。どの工程もタイミングがすべてだ。一体、どのような思いで染め物と向き合っているのだろう。
「ものづくりは、“自分”という事柄からグググ~ッと距離を作ってくれて、必要以上に考えなくても流れの中にちゃんと居ることを感じさせてくれます。そんな大切な時間をできるだけ多く持ち、誰かと共有したいですね」
植物の色素とタンパク質は結びつきやすいゆえ、植物で木綿を染めるときは、前もって生地にタンパク質を付着させている。その下処理の作用を応用し、タンパク質の濃淡で微妙なシワ感を出す。つまり、自然にできる布ジワそのものを模様にしているので、染めるというよりは、自動的に染まるような感覚に近いという。
自然の美しさを誰よりも知っている佐渡さんのてぬぐい。目にうつるたび、手に触れるたびに、植物のエネルギーを感じずにはいられないだろう。